読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

 大量の情報処理によって認知機能に過負荷がかかり、健忘症に似た症状を示しているチンパンジーが居た。そのチンパンジーの名はモモ。7歳の女性だ。モモの好物は練乳をこれでもかと垂らしたあまおうイチゴで、福岡県のとある実験施設で飼われている。モモは複数の段階を経ることで、好物のあまおうイチゴが与えられる。(1)よく学ぶ(2)嫌いな飼育員にもヘコヘコ媚びへつらう(3)「今辛くても、我慢をすればいいことがある」と信じる(4)他のチンパンジーとの関係で強いストレスを感じても、決して自暴自棄になってはならない(5)生殖能力がなくなる前に、交尾相手を探すような素振りを飼育員に見せつける(6)指示を待つだけのチンパンジーでなく、自立心の持った独創性のあるチンパンジーだということを飼育員に見せつける。左のような過程を経て、モモはあまおうイチゴを食べることができるのだが、あまりにも膨大な仕事量にモモの脳機能はすっかりパンクしてしまった。今やモモは、日々天井に向けて糞を投げつけることだけに執心している。

 

2017.02.26 19:27

 不安を感じるようになったのはいつごろからだろうか。まだ背丈が今よりうんと小さかった頃、僕は不安を感じたことなど無かった。恐れたこともなかった。とても幸福だった。もちろんその時の僕にだって、原初的な恐怖はあっただろう。こうしたら痛いかな、とかこの川の水が落ちていく先、あの滝壺に落下していけば死ぬだろうな、とか。それらは全て対象を伴った恐怖だった。そして傍にはいつも誰かが居たんだ。逃避できる場所が存在していた。恐怖には常に希望が伴っていた。ここから飛び降りてみたら、この角を曲がった先には、何が待ち受けているのだろう?そんな好奇心。でもいつからか逃避できる場所は消えていて、昔持ってた冒険心も消えた。今の僕が何に対して不安を抱いているのかは分からない。ただ何者かが僕を常に圧迫している。逃避できる誰かは、もう存在しない。少なくとも10年以上前からこんな調子だ。幸福は少しずつ擦り切れていった。不安がゆっくりとアスファルトの間から立ち上がってきて、次第に街中を埋め尽くす。サイコパスは不安を感じないらしい。僕とサイコパスは他者に対する共感性の薄さという点で類似性を持つが、不安を感じるという点で大きく異る。10年前から徐々に、もこもこした黒くて重い塊が僕の背中の上で増殖し続ける。何とか取り除こうと必死に手で塊をかき回してみても、僕が見てない内に塊は増殖を続ける。僕はそのうち重みに耐えきれなくなって、アスファルトに臥して、アスファルトと同化して不安そのものになるのだろう。

 

 2017.2.20 17:08

 

 

 ぷっちんプリンをぷっちんすると、底部のぷっちんするところからカラメルが漏れるようになった。これは昔からだったろうか。明治のぷっちんプリンなのだが、今までの経験ではぷっちんするところからカラメルが漏れてくるなんてことはなかったと思う。商品不備だろうか、そういう仕様だろうか。ぷっちんするところから漏れたカラメルが床に落ちて、絨毯を汚したのでとても嫌だった。これからは安心してぷっちんすることができない。カラメルが漏れないという安心の上にぷっちんプリンと僕の関係は成り立っていた。その信頼構造が一度崩れた以上、ぷっちんプリンに入れ込むことはできそうにない。

 

2017.02.17 22:31

 悪魔のような笑い声が延々と響き続けて、豚の親子が殺されて、サルが磔にされるのを観たので、今日は朝から気分が優れなかった。不細工で醜い小児科医よりも、柔らかい彼女の天使のような歌声が響き渡る花園で、猫が水辺と格闘し、蝶がゆらゆらと番いを作るのを観た方が全然良い。つまりは、何か定型から外れた奇妙な歪みを見ていられるほど、気持ちは落ち着いていない。型にはまった正論は嫌だけど、型からはみ出しているドロドロした生臭い流体は、すっかり洗い流した方が早い。ドロドロしたものが流れていってしまった後の体の中には何か違うものを詰めておけばいいだけだ。

 

2017.02.16 20:09

 何事にも動じないかのような素振りをしていたが、実際は神経質で傷つきやすいのだろう。小さなことが気になるので、自己防衛として世界に対して無関心や不干渉を貫いているにすぎない。

 なぜあの時、あそこまで自分の感情に素直になってしまったかは分からない。いつもなら嘘で乗り切ったはずだし、少なくとも嘘をつく姿勢は示したはずだ。

 それもしなかったのは、もう限界だったからだ。

 靴の裏底はある一定の厚さまでは擦り切れるだけだが、ある時ぽっかりと穴が開く。毎日毎日同じ靴を履いて修繕もしないと、いつかこうなる。そしてある一瞬の構成集団の内において、感情を全てさらけ出してしまうことになる。

 一般的に素の感情をさらけ出すのは、恥ずべきこととされている。俺もそう思う。だがそんなことを考える余裕もないほどに追い詰められた。ここは一旦逃避するしか方法はないと思う。

 

2017.02.14 9:38

 思い描いていた地図を多少下方修正しないといけないらしい。初めからムリある計画と理解ってはいたのだ。だがかつての自分の小さな過ちから、こんな事態にならざるを得ないのはとても寂しい。あまりに馬鹿げている。僕の責任もそりゃあるだろうが、その小さな欠陥が10年後も20年後もついて回る世界に生きているのだという。それじゃ皆生きたくなくなってもしょうがない。もうどこへ行こうとタグ付けされて、一度経歴に傷が付けばそこでお終い。犯罪履歴を消去するために、何かより大きな罪に手を染めるSF小説があったような。些細なミスを見過ごせないようになれば、その息苦しさから成層圏を全て爆破させようなんて考えを持った浮動的金魚が、この島国のどこかから誕生してもおかしくない。

 

2017.02.11 17:20

 

 

 誰にも見せたくない僕の秘部を暇な誰かが保管していて、いつか暴露されるのではないかという不安が常につきまとう。というより誰も彼も秘密の暴露をしていて、もう既に僕の秘密など明らかになっているのだが、まだ皆は気づいていないというだけだ。でも、僕がそれに立ち向かおうとすればするほど、触れてほしくない部分は大きくなって僕の邪魔をするだろうし、きっとそのせいで夢の中に逃げる以外の術を失うのだろう。

 暴露された秘密は僕自身の秘密でなく、彼の秘密なのかもしれないが、僕達は秘密を共有しあっているので結局はおんなじことでしかない。僕らが世界を映像で記録することを覚えてから、世界は切り貼りされて、捕らえられたくない瞬間が残り続ける。フィルムは人間の尊厳よりも重い。

 

2017.02.11 14:50