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 不安を感じるようになったのはいつごろからだろうか。まだ背丈が今よりうんと小さかった頃、僕は不安を感じたことなど無かった。恐れたこともなかった。とても幸福だった。もちろんその時の僕にだって、原初的な恐怖はあっただろう。こうしたら痛いかな、とかこの川の水が落ちていく先、あの滝壺に落下していけば死ぬだろうな、とか。それらは全て対象を伴った恐怖だった。そして傍にはいつも誰かが居たんだ。逃避できる場所が存在していた。恐怖には常に希望が伴っていた。ここから飛び降りてみたら、この角を曲がった先には、何が待ち受けているのだろう?そんな好奇心。でもいつからか逃避できる場所は消えていて、昔持ってた冒険心も消えた。今の僕が何に対して不安を抱いているのかは分からない。ただ何者かが僕を常に圧迫している。逃避できる誰かは、もう存在しない。少なくとも10年以上前からこんな調子だ。幸福は少しずつ擦り切れていった。不安がゆっくりとアスファルトの間から立ち上がってきて、次第に街中を埋め尽くす。サイコパスは不安を感じないらしい。僕とサイコパスは他者に対する共感性の薄さという点で類似性を持つが、不安を感じるという点で大きく異る。10年前から徐々に、もこもこした黒くて重い塊が僕の背中の上で増殖し続ける。何とか取り除こうと必死に手で塊をかき回してみても、僕が見てない内に塊は増殖を続ける。僕はそのうち重みに耐えきれなくなって、アスファルトに臥して、アスファルトと同化して不安そのものになるのだろう。

 

 2017.2.20 17:08